映画『パルプ・フィクション』(1994)で、最も不思議で魅力的な個性を持ったキャラクターが、ジュールス・ウィンフィールドです。
演じたのはサミュエル・L・ジャクソンさん。
ジュールスが、自慢げに殺しの前に復唱するのが、聖書の一節「エゼキエル書25章17節」。
ジュールスの「エゼキエル書25章17節」
The path of the righteous man is beset on all sides by the inequities of the selfish and the tyranny of evil men. Blessed is he who, in the name of charity and good will, shepherds the weak through the valley of darkness, for he is truly his brother’s keeper and the finder of lost children. And I will strike down upon thee with great vengeance and furious anger those who attempt to poison and destroy My brothers. And you will know My name is the Lord when I lay My vengeance upon thee.
心正しき者の歩む道は、心悪しき者の暴虐で阻まれる
愛と善行の名において、暗い谷で弱き者を導く者に祝福を
彼こそは兄弟たちを守り、迷い子たちを救う者なり
我は怒りと大いなる復讐をもって、わが兄弟を毒し、滅ぼそうとする汝に制裁を下す者なり
しかして汝に復讐をなす時、汝は我が主であることを知るであろう
エゼキエル書25章17節 Tシャツエゼキエル書25章17節は、殺しの前に唱える、世界で最も有名な聖書の一節。
実はこの台詞は、聖書を元に創作されています。実際のエゼキエル書25章17節は、このような短い文章です。
実際の「エゼキエル書25章17節」
And I will execute great vengeance upon them with furious rebukes; and they shall know that I am the LORD, when I shall lay my vengeance upon them.
我、怒りの罰をもて、大いなる復仇(あだ)を彼らに為さん。
我、仇を彼らに復(かえ)す時に、彼らは我のヱホバなるを知るべし。
本物の17節は、台詞の後半の「大いなる復讐と怒り」と、最後の一文に、ふたつに分けて埋め込まれています。
そこに、聖書のほかの部分にある「羊飼い」の話を織り交ぜて、映画独自のダイアログとして仕上がっています。「主は羊飼い」「死の陰の谷」の詩篇23篇、羊飼いが散らされた羊を探し出すエゼキエル書34章、「わたしは弟の番人でしょうか」と答えたカインの創世記4章。どれも、台詞の中に言い回しが残っています。
もともと、この「殺しの前に聖書を復唱」するスタイルは、タランティーノ監督が大ファンである千葉真一さんが主演した『ボディガード牙』(1973)の英語版からの引用だと言われています。
千葉さんは、テレビ時代劇『影の軍団』シリーズでも、対決の時に決め台詞をかますスタイルでした。
我が身、すでに鉄なり
我が心、すでに空なり
『影の軍団』シリーズの千葉さんの役名は「服部半蔵」で、『キル・ビル』に登場した刀鍛冶も同じ名前でした。しかも、演じたのは千葉さん本人です。
ジュールスは、マーセルス・ウォレスの忠実な部下で、殺しも躊躇なく行う筋金入りのギャングですが、劇中で二度目にこのエゼキエル書を復唱するとき、まったく別の意味として語っています。
ジュールスは、制裁を与える側として、殺しの前に聖書を復唱していました。しかし、至近距離で撃たれた弾丸が自分たちの体をすり抜けた(と信じている)奇跡を体験したのちは、意味がまるで変わります。
ダイナーで強盗カップルを前に唱えるとき、ジュールスは、自分こそが「心悪しき者の暴虐」で、パンプキンが「弱き者」だと読み替えます。そして、いまは「羊飼い」になろうと努力しているのだ、と語ります。だから、殺せたのに、生かして帰しました。
心悪しき者の暴虐 Tシャツ心悪しき者の暴虐か?弱き者を導く羊飼いか?運命を選べ。
同じ体験をして、奇跡をまったく信じなかったビンセントは、このあとブッチの家の待ち伏せ中にトイレで読書をしていたため、自分が置き忘れたサブマシンガンで蜂の巣にされてしまいます。
映画の中で、もっとも変化するのがジュールスなら、まったく変化しないのがビンセントで、ふたりのバディ感、ムダ話は、どのシーンも最高にクールで、キマっています。
ほかにも、ジュールスには聖書の復唱だけでなく、「ビッグカフナバーガーをスプライトで胃に流し込む」という独特の言語表現や、パンパンにドル札を入れて持ち歩いているのがBAD MOTHER FUCKER刺繍の革財布だったりと、魅力とツッコミどころが満載の、愛すべきキャラクターです。
最高の「マクガフィン」とは? ジュールスの財布『パルプ・フィクション』でジュールスが大切にしている、BAD MOTHER FUCKERと刺繍が入った革財布。金は渡しても、この財布だけは渡さない。






